マダニの生態と対策。噛まれたときの対処法。感染症は?
2016/09/22
マダニはダニ目・マダニ科に属するマダニの総称です。
しかし実のところ、マダニは昆虫ではありません。
体の特徴からクモやサソリに近い仲間とされています。
マダニには困った問題もありまして、人間や動物の血液を吸って繁殖します。
それだけでなく吸血の過程で病気を媒介する可能性もあるため、対処には細心の注意を払わなければなりません。
生態
生息地
※葉っぱに隠れるシカダニ(マダニの一種)↑
マダニの生息地、見られる時期は次の様になっています。
地域:北海道、本州、四国、九州、南西諸島
場所:住宅街、草むら、河川敷、雑木林
時期:4月~11月
ダニは全国的に生息しており、暖かくなり始めた4月頃から冬の11月くらいまで見られます。
しかし日本は温暖化が進行しているので、マダニはほぼ一年中見られると思ってもいいでしょう。
マダニは主に屋外で生息しており、人間や動物が通る際に音もなく静かに付着します。
ノミが飛び跳ねて寄生するのに対して、マダニは跳んだりせず通りすがりざまに寄生します。
特徴
マダニには次の特徴があります。
- 吸血前の体色は褐色、吸血後は黒灰色(成虫)
- 体長は吸血前で3mm程度、吸血後は10mm程度(成虫)
- ダニ類の中では大型であり、肉眼で確認できる
- 吸血すると体長が2倍~3倍以上に膨れ上がる
- 体色は吸血と共に暗くなっていく
- 成虫の手足は8本(4対)、幼虫の手足は6本(3対)とクモの体に似ている
- 鋭い鋏角で皮膚を裂き、管状の口下辺を突き刺して吸血する
- 吸血中に皮膚と口下辺などを固定する特殊な物質を分泌する
- 寿命は3年~5年と非常に長生き
- 生涯に吸血するのはたった3回
- 10日かけて1回の吸血を完了する
まずノミと違ってマダニは肉眼で確認できます。
さらに吸血することで体長が倍以上に膨れ上がるのもマダニならではの特徴です。
そして寿命も虫にしては長生きで、3年から5年も生き永らえます。
幼虫、若虫、成虫と成長するごとに吸血をするので、生涯の吸血回数が3回なのです。
急いで寄生主から吸血しているイメージが強いですが、1回吸血を完了させるのに10日ほど掛かります。
10日間程度寄生主に気付かれてはならないため、マダニは吸血時に麻酔の様な物質を分泌します。
ですからあれほど大きなマダニに寄生されても、寄生主が気が付かないことが起こり得るのです。
餌
マダニは成虫も幼虫も動物の血液を餌にしています。
いつでも寄生できるように草葉の陰に隠れつつ、チャンスを窺っています。
一番手頃な寄生先は犬と猫です。
一般的に昆虫は複眼や単眼で獲物の姿を確認しています。
しかしマダニの顔や体を観察すると、特に目が発達しているとも見受けられません。
視力に優れているとは思えないマダニがなぜ寄生対象に寄生できるのでしょうか?
実はマダニの場合は獲物が起こす振動や体温、呼吸による二酸化炭素の増減で寄生対象を察知しているのです。
ですから特に視力に頼らずとも寄生先を見付けられるのですね。
天敵
マダニの天敵は昆虫類、爬虫類、両生類、鳥類になります。
中でもやはり一番の天敵はクモでしょう。
気持ち悪い姿をしていることから不快害虫として人間に嫌われているクモですが、マダニを捕食する益虫という面も持っています。
クモはマダニを見付けるとサッと素早く接近し、すぐに捕食してしまいます。
この事から家庭内でハエトリグモをはじめとするクモ類が多数見られたら、マダニが繁殖している可能性も考えられます。
気持ちが悪いクモを駆除することばかりを考えるのではなく、"なぜクモがいるのか?"という考察をすることも大切です。
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飼育について
マダニは飼えなくもない生き物ですが、病原菌保持や感染症を媒介するなど悪影響が大きい面があります。
ですから好奇心からの飼育は避けるべきでしょう。
一回に数百~数千と産卵することが確認されており、万が一逃げ出してしまったら手に負えない状態になるかもしれません。
マダニを飼育してみたいと思われている方がいましたら、止めておくことをお奨めします。
捕獲方法
こちらもあまりオススメしませんが、以下捕獲方法です。
使用する道具
- 目の細かい網
- 軍手
- 明るい色の長袖(タートルネック)
- 長ズボン
- 長靴
ポイント
草むらにマダニは住んでいるので、草をかき分けながら探しましょう。
発見次第網で捕まえてください。
肉眼で確認することが可能と言えども、目の大きい網を使っていると逃げられてしまいます。
なので網はできるだけ目の細かいものを使うとマダニがすり抜けずに済むでしょう。
またこの時に肌をさらしていると噛まれたりします。
ですから必ず軍手・長袖・長ズボン・長靴を着用して身を守ってください。
ウッカリ首部分の自衛を怠る人が多いですので、なるべく首まで覆えるタートルネックを着用しましょう。
それから明るい色の服装をすることもお勧めします。
生地のコントラストによって、暗色系のマダニの存在を容易に確認しやすくなるからです。
これならばもしマダニが体に付着していてもすぐに分かりますから安心ですね。
注意点、対処法など(人間編)
小さいマダニですが様々なトラブルの元ですので注意しましょう。
マダニに吸血されると感染症を引き起こすことがあります。
あの小さな体内に様々な病原菌を保菌しているので、噛まれただけで病気を発症してしまうのです。
(※ただしマダニに噛まれたから必ず何らかの病気を発症するという訳ではありません)
マダニに対する対処や予防法を学び、自分の身を守りましょう。
マダニによる噛み跡の特徴
マダニに噛まれると皮膚がやや赤黒くぼやけて腫れます。
蚊に刺された跡と比較すると、やや赤黒さが目立ち、赤みの範囲が狭いので分かりやすいかもしれません。
それから複数の赤黒い噛み跡が密集している傾向にあります。
マダニに噛まれたらどうするべきか?
まずパニックに陥りマダニを皮膚から引っ張ろうとしますがこれはダメです。
気味が悪いですが、その引き剥がしたりせず、そのままにしましょう。
吸血時には皮膚と口下辺などを固定する物質が分泌されるので、無理やりマダニを引き剥がすとマダニの破片が体内へ残ります。
残った破片から感染症を引き起こしたり、患部が化膿するなど重篤な症状に見舞われるかもしれません。
噛みついたマダニを取り外す方法
破片を体内に残さずにマダニを外す方法があるのでいくつか紹介しましょう。
アルコール
- <やり方> アルコールを含ませたガーゼをマダニに被せてマダニが離れるのを待つ
- <メリット> カンタンで消毒を兼ねる
- <デメリット> マダニが自発的に離れる前に死なれると、皮膚に破片が残ってしまう。 体質によってはかぶれを起こす可能性がある
ワセリン、ハンドクリーム
- <やり方>患部に30分程度ワセリンやハンドクリームを乗せてマダニを窒息させる
- <メリット>患部に適量クリームを乗せるだけで簡単
- <デメリット>マダニが自発的に離れる前に死なれると、皮膚に破片が残ってしまう
アルコール・ワセリン&ハンドクリームは簡単にできるマダニの取り方です。
あくまでこれらはマダニを殺すのではなく、マダニを苦しめて自発的に皮膚からキバを離させるのが目的です。
もし殺してしまったら皮膚に破片が残ってしまうので、殺さないように弱らせなければなりません。
この他には以下の2つの方法がありますが、危険で成功率が低いのでやらない方がいいでしょう。
熱湯
- <やり方>マダニにお湯をかける
- <デメリット1>お風呂ぐらいの温度ではマダニが離れない。
- <デメリット2>温だとマダニは離れるかもしれないが、人間はやけどをしてしまう。
- <デメリット3>マダニが自発的に離れる前に死なれると、皮膚に破片が残ってしまう。
タバコ
- <やり方>マダニにタバコを近付ける
- <デメリット1>高温だとマダニは離れるかもしれないが、人間はやけどをしてしまう
- <デメリット2>マダニが自発的に離れる前に死なれると、皮膚に破片が残ってしまう
こちらの取り方ではマダニを殺してしまい取り外しに失敗しやすく、なおかつ人間がやけどを負う可能性が高いのでやらないようにしましょう。
マダニに噛まれたら病院へ。どの科へ行くべきか?
発見後は落ち着いて『皮膚科』へ受診しましょう。
できれば内科や外科など多数の科が揃っている総合病院へ行くと良いですね。
もし何らかの問題があっても院内にいる医師同士で連携が取れますし、患者も重症化する前に総合的な治療が可能です。
病院へ行く際には、マダニに噛まれた事実を伝えると医療関係者も対処しやすいです。
仮に外国へ行った際にマダニに噛まれたり、帰国後体調不良になったら渡航先の国名や時期も伝えましょう。
マダニが原因となる病気感染症と症状
マダニが媒介する病気や感染症は様々ありますが、主に以下について注意しましょう。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
- <症状>頭痛、吐き気、下痢、発熱
- <治療法>現在治療法は確立されておらず、症状を緩和して回復を待つ対処法しかない
- <備考1>全てのマダニがSFTSウイルスを保有しているわけではない
- <備考2>日本では主に西日本でSFTSを持つマダニが見られる
ライム病
- <症状>発熱、筋肉痛、頭痛、髄膜炎、関節炎
- <治療法>抗菌薬の投与で治療が可能
- <備考>病原体ボレリアに感染することで発症する
日本紅班熱
- <症状>発熱、発疹、頭痛
- <治療法>抗菌薬の投与で治療が可能
- <備考1>主に西日本での発症報告数が多い
- <備考2>類似の感染症にはツツガムシ病がある
Q熱
- <症状>発熱、倦怠感、肝炎、肺炎、髄膜炎
- <治療法>抗菌薬の投与で治療が可能
- <備考1>リケッチア菌の感染により発症する
- <備考2>症状は多岐に渡るためQ熱と判断することが難しい
マダニの繁殖を防止する4つのポイント
マダニの繁殖を防止するには以下の4つのポイントに気を付けましょう。
- 草むらに行かない
- 繊維類を部屋に置かない
- 湿度を下げる
- 動物がいる場合管理を怠らない
まずマダニの生息地は草むらです。
ですから草むらを避けるだけでもマダニによる被害を防げるのです。
これが一番効果的なポイントです。
それから室内に繊維類を置かず、湿度を下げるように心掛けましょう。
繊維類はマダニの隠れ家になりますし、さらに湿度が高い環境を好みます。
最後に犬猫に限らず動物を飼育している人は管理を徹底しましょう。
犬猫は毛をかき分けて地肌全体に付着していないか探してください。
最近は犬猫のみならずヘビやカメなどの爬虫類からも寄生したマダニが発見されています。
一見皮膚が頑丈そうな爬虫類ですが、マダニの鋭い鋏角は硬い皮膚をも引き裂きます。
ネットで検索するとマダニにびっしり寄生された爬虫類の画像が見付かるので、ぜひご覧になられてはいかがでしょうか?
またマダニに寄生されたまま外国から爬虫類が輸入されるケースが確認されています。
これから爬虫類を輸入したり飼育する予定の人は気を付けてください。
もちろん輸入動物に限定されず、国内繁殖の動物においてもマダニの寄生はあり得る話です。
悪徳なブリーダーから動物を買わないようにすることも消費者ができるマダニ対策です。
注意点、犬編
人間のみならず犬も同様にマダニの脅威にさらされています。
飼育している人は気を付けましょう。
マダニに噛まれても犬はかゆくない場合がある
まずマダニに噛まれても犬はかゆがらないことがあります。
厳密には少々痛みやかゆみがあるようですが、寄生の際に麻酔のような物質が分泌されるから感覚が鈍ります。
そのため寄生された犬の反応は薄くなり、飼い主はマダニの寄生に気づき難いのです。
犬に寄生したマダニはどう取り除くべきか
マダニを見つけたら我流で取り除いてはいけません。
そのままにして獣医師に駆除を任せましょう。
実はマダニは厄介な寄生虫で、吸血時に口下辺と皮膚を接着する物質を分泌します。
マダニの破片が体内へ残ると化膿や感染症を引き起こす可能性があるのです。
また犬の皮膚はデリケートなので間違った刺激を与えると、却って症状を悪化させます。
飼い主さんでマダニの駆除をする人がいますが、絶対に止めましょう。
マダニから愛犬を守る対策
- 草むらに行かない
- 定期的に体をチェックする
- 居住スペースを消毒、防除する
シンプルですが、草むらに行かないだけでもマダニの寄生を避けられます。
また定期的に犬の毛をかき分けてマダニを探しましょう。
重点的に探す場所は『耳の裏、腹、まぶた』など毛が薄い場所になります。
特にゴールデンレトリーバー・ラブラドールレトリーバーなど耳が垂れた洋犬は要注意です。
シングルコートの犬種もマダニが寄生しやすいので気を付けてください。
仮にマダニがいたら、犬の使う敷物類は処分、室内飼育ならば居住スペースを防除します
マダニから犬が感染する病気
ライム病
- <症状>発熱、食欲不振、関節炎
- <原因>ボレリア菌から感染
- <備考>人獣共通感染症(ズーノーシス)である
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
- <症状>発熱、下痢、頭痛、嘔吐
- <原因>SFTSウイルスから感染
- <備考1>人獣共通感染症(ズーノーシス)ではない
- <備考2>犬の発症例はまだないとされる
バベシア症
- <症状>下痢、嘔吐、黄疸、血尿、貧血、発熱など様々
- <原因>赤血球内でマダニ保菌のバベシア原虫が増殖することによる
- <備考>人獣共通感染症(ズーノーシス)ではないと言われているが、例外があるので注意が必要※治療法は現在も確立されていない
犬を飼育する人は人獣共通感染症(ズーノーシス)に気を付けましょう。
犬に口元を舐めさせたり、犬を触った後で手を洗わない飼い主さんがいます。
これではいつ人獣共通感染症に感染してもおかしくありませんから、愛犬と間違った接触をしないようにしましょう。
コラム
マダニのちょっとしたコラムを紹介しましょう。
SFTSウイルスを持った野性動物が発見されています
イノシシ、シカなどの野性動物からSFTSウイルスを持った個体が発見されています。
マダニについては北海道において保有個体が発見されたとの報告があります。
昨今においてはイノシシ、シカ、クマなどが大繁殖し、住宅街に出没したというニュースが後を絶ちません。
野性動物が住宅街へ出没するということは、SFTSウイルスを持ったマダニが住宅街へ移動する恐れがあると言えます。
クマによる襲撃、イノシシによる衝突事件が危険なのは明白ですが、こうしたマダニに関する危険性も考えなければならないでしょう。
また特に危険視すべきなのは、繁殖力が凄まじく体毛が薄いシカです。
これらは害獣として地元猟友会に駆除され、駆除後は問題が解決したように思えます。
しかし害獣はいなくなったものの、水面下でマダニの移動が行われているのではないかとの疑念もあるわけです。
ですからこの先、野生動物に寄生したマダニによる感染症のパンデミックが発生する可能性も考えられます。
害獣駆除については個体の駆除ばかりではなく、マダニについての脅威にも目を向けるべきではないでしょうか?
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