イヌワシの生態。生息地や鳴き声、大きさなどの特徴
勇壮な姿が凛々しいイヌワシは、見た人に特別な思いを抱かせてくれます。
しかしイヌワシは近い将来、絶滅が危惧されている鳥でもあります。この30年ほどは日本での繁殖成功例は減る一方で、一部地域では絶滅間近という危機的な状況に陥っています。
イヌワシの生態と特徴
生息地
日本では沖縄と離島を除く全国に分布しています。
特に日本アルプスなど、山岳地帯で暮らす個体は印象的で、息吹山などイヌワシ観察で有名な地域もあります。
日本では留鳥ですが、海外では繁殖地と越冬地を行き来する個体もいます。
世界的な分布は広く、ユーラシア大陸、北アメリカ大陸、アフリカ大陸北部に分布します。
北半球の温帯~亜寒帯をほぼ網羅し、理論上は一年のいづれかの時期には目撃できます。
拓けた見晴らしの良い環境を好み、草原や開けた森林に生息します。
つがいで狩りをすることもあり、一羽が獲物を引きつけ、もう一羽が背後から襲うというコンビネーションプレイを行うことも。
人間が開拓した牧草地なども好むため、人間との関わりやトラブルも散見しています。
特徴
タカ目タカ科イヌワシ属の鳥類です。イヌワシ属の基準になる種類で(模式種)世界に6亜種が存在します。
日本の亜種イヌワシは、日本と朝鮮半島に分布します。
非常に数が少ない鷲で、全国に400~500羽ほどしか生息していないと推測されています。
絶滅危惧種の鳥で、1965年に天然記念物に指定され、後に一部の繁殖地も天然記念物に指定されました。このため、イヌワシの総括的な保護活動が行えるようになりました。
大きさ
雄より雌のほうが大きく、くちばしの先からしっぽの先まで75~95cmほど、翼を広げると168~220cmに達します。
体重は雌で7kgにも達し、鳥の中では非常に重い鳥です。
鳴き声、寿命
鳴き声は「ピィウー」など。滅多に鳴かないと言われています。非常に長生きな鷲で、飼育下では46歳という記録が残っています。
体の特徴
一般的な鷲のイメージそのままの堂々とした風格の鳥です。全身は暗い褐色ですが、後頭部は黄金色です。英語で「ゴールデンイーグル」と呼ばれるのは、この後頭部の色のため。
足とくちばしは黄色く、くちばしの先だけ黒いのが特徴です。瞳は黄色~淡いオレンジ色で、いかにも精悍そうに見えます。
若(幼鳥)は頭の後ろや首に縦縞が入り、すぐに見分けることができます。
子育てについて
イヌワシは生態系の頂点にいる鳥なので、卵の数は少なく1~2個だけ生みます。
巣は大木の上や崖などに作り、ほぼ毎年同じ場所に営巣宇します。2~3月ごろに産卵し、雌が卵を暖めます。
43~47日ほどで孵化し、育児も雛が大きくなるまで雌がほぼ一羽で面倒を看ます。(雄はエサ取りに追われます)
イヌワシの世界は非常に生存競争が厳しく、通常1羽しか育てることができません。2羽の雛が生まれても、兄姉が妹弟をつついて殺してしまいます。
これはエサが不足しているためと考えられています。アメリカ大陸で育つイヌワシはエサが豊富なためか、2羽とも巣立つことが多く、多産な親なら3羽も巣立つこともあります。
孵化してから65~80日ほどで雛は飛べるまで成長し、90日ほどで独立します。しかし、独立してもいきなり繁殖することはできません。
イヌワシの性成熟は遅く、3~4年ほどで成熟し、5年でようやく大人と同じ羽の色になります。非常に寿命が長い代わりに、大人になるまで過酷なサバイバルを勝ち抜く必要があります。
食性および餌、狩り方
ノウサギ、ヤマドリ、ヘビなど、動物であれば大抵のものは食べます。生きた獲物だけでなく、死骸を漁ることも。
その地域にいる獲物ならなんでも補食するため、地域によって主食は大きく異なります。
一般的にノウサギを主に補食すると言われますが、エゾリスやヘビなどが身近にあれば、これを主食にします。
特に、日本のイヌワシはアオダイショウなどのヘビを多く食べる傾向があります。日本の草原や森にはヘビが多く、手軽に食べられる食材だからです。
空中や、見晴らしの良い岩の上に止まって獲物を見定めます。狙いをつけると空から急降下して、するどい爪で掴み上げます。
海外の山岳地帯では、崖に暮らす山羊を襲うことがあります。
爪で引っかけて崖の下に落として絶命させ、悠々と食べる姿が目撃されています。そのまま爪に引っかけたまま滑空していくこともあり、猛禽類の中でもダイナミックな狩りを行います。
エピソード
漢字の由来
イヌワシは漢字で「狗鷲」と書きます。狗(天狗)のモデルになった鳥と言われています。
山岳地帯を優雅に飛ぶ姿は、翼を伸ばした天狗のように見えたでしょう。
鷹狩について
世界各国にイヌワシは生息しています。そのため人間との関わりも深く、鷹匠の鷹として活躍する地域も少なくありません。
モンゴルやキルギスなどの草原地域ではイヌワシが暮らしやすい環境で、鷹狩りも盛んです。歴史は古く、2000年以上の伝統があると言われています。
西モンゴルのカザフ族はイヌワシを使った鷹狩が盛んで、13歳になると鷹匠としての訓練を始めます。
初めは7キロもあるイヌワシを腕に乗せるだけでも大変で、イヌワシに脅されてびっくりすることも度々です。徐々に信頼関係を深めて、ノウサギやキツネを狩るようになります。
カザフ族の鷹狩は独特で、雛からイヌワシを育て、数年間働かせた後はお礼に羊肉を与えてから自然に帰します。
人間にとっては、自然に帰したイヌワシが繁殖して増えることが期待できます。イヌワシにとっては生存が大変な青年期を人間に保護してもらえる利点があり、お役御免になったころには性成熟した成鳥に育っています。そのため、カザフ族とイヌワシは共存関係にあると考えられます。
カザフ族の鷹匠は、本来は男性の仕事です。しかし21世紀になり、女性の鷹匠候補が誕生して話題になりました。
すばらしい信頼関係を築く一方で、イヌワシは害鳥として駆除されていた歴史もあります。
子羊を襲うとされ嫌われていた時代もありました。実際に山羊の子供を襲う姿が目撃されているので、羊の子も同様に襲っていたのは想像に難くありません。
何れにせよ、力強い狩りを行う、鷲のイメージそのものの鷲です。
日本での保護活動
日本では慢性的な餌不足に悩まされ、雛がなかなか育たない状況が続いています。
これは日本人が山林を開拓せず、雑木林になるがまま任せているためと考えられています。木や草が茂ると見晴らしが悪くなり、イヌワシにとっては不利になります。そのため、イヌワシのために人工林を切り開き、狩り場を作る試みが続いています。
群馬県みなかみ町の国有林の一部を伐採したところ、イヌワシが姿を見せることが増えたという報告がニュースになりました。
今までも狭い規模で伐採したケースはありますが、今回は国有林の中の人工林を2ヘクタールも切り開き、狩り場にするという大規模なものでした。
人工林は野生動物にとっては良い環境とは言えず、生息を難しくしている面があります。人工林を切り開くことでイヌワシの増加に繋がり、新たな生態系が生まれる可能性が期待できます。
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