ハシボソガラスの生態。ハシブトとの違いがわかる鳴き声・見た目!撃退法について
里山に昔から暮らすハシボソガラスは、日本を代表するカラスの一種。
都市に多く暮らすハシブトガラスに比べ、ハシボソガラスは里山など地方に多く分布します。
賢さはハシブトガラスとほぼ同等で、人間も驚くような遊びやいたずらを起こします。
一方で農作物への被害も深刻で、毎年20億円ほど被害を起こしています。人間側も必死に対策していますが、なかなか一筋縄ではいかないのが現状です。
ハシブトガラスの生態と特徴
分布
九州より北の平地~低い山に分布します。ハシブトガラスのように高山帯には生息せず、農耕地、河川、海岸に多く分布します。
市街地にも現れますが、大都会など自然が極端に少ない場所にはいません。
昔から人間のそばで暮らすカラスで、都市化が進むまでは「カラス」と言えばハシボソガラスのことでした。
世界的にはユーラシア大陸全般に広く分布し、特に東部と西部に多く分布します。ハシブトガラスに比べると乾燥した、見晴らしの良い地域を好む傾向があります。
春から夏には子育てを行い、冬になると大群を作ります。
ひなは8月ごろに若鳥に成鳥しますが、性成熟するには2年ほどかかります。まだペアが組めない若鳥や、一人もののハシボソガラスは夏でも集団ねぐらで眠ります。
特徴
スズメ目カラス科カラス属の鳥です。全身真っ黒で、一見するとハシブトガラスと見分けがつきません。しかし、ハシボソガラスとハシブトガラスはあまり近い仲間ではありません。
外見は真っ黒ですが、ダウン(皮膚の近くに生える、保温用の羽)は白く、高い保温効果があります。
くちばしの先からしっぽの先まで50cmほどで、ハシブトガラスより若干小さめです。
ハシブトガラスが増加傾向にあるのに比べ、ハシボソガラスは減少傾向にあります。
ハシブトガラスとの違い
ハシブトガラスとの最大の違いは、くちばしの太さです。
その名のとおり、ハシボソガラスはくちばしが細く、額が出っ張っていません。カケスなどと同じ頭の形をしているので、慣れるとすぐに見分けられます。
※↓写真上:ハシボソ、写真下:ハシブト
鳴き声は、振り絞るような声で「ガァー、ガァー」としゃがれた声で鳴きます。澄んだ声で鳴くハシブトガラスに比べると、響きはあまり良くありません。
繁殖~子育て
ハシボソガラスはペアで縄張りを持ち、一年中同じ場所で暮らしています。繁殖期でない冬には、夜だけ集団で眠ります。
春に繁殖活動を行い、木の枝やハンガー、車のワイパーなどを組んで椀状の巣を作ります。4月ごろに3~5個の卵を産み、雌が卵を暖め、雄はせっせと雌に食事を運びます。
20日ほどで孵化し、約1ヶ月ほどで巣立ちを迎えます。雛がかえると雄雌でエサを与えます。
ハシボソガラスは育児に時間がかかるため、基本的に1シーズンに育児は一度だけ行います。繁殖に失敗した際は1シーズンでも再び育児を行うことがあります。
高い知能をもつハシブトガラス
非常によく遊び、一羽またはペアで様々な遊びを行います。ハシブトガラスのように大集団では遊ばず、少数で遊ぶ傾向があります。
遊びのレベルは非常に高く、空から小石や枝を落としたり、線路や道路に置き石をしたり、すべり台などで滑るなど、人間の子供のような行動を見せます。
ゴルフボールを持ち去ったり、勝手に動かしてカップインさせたりします。ボール自体がカラスの所有欲を刺激しますが、ボールを動かすと人間が騒ぐのを知っていて、それを見て楽しむために動かすこともあります。
銭湯の煙突の煙を浴び、水浴びならぬ「煙浴び」を行うこともあります。燻すことで寄生虫などを駆除していると考えられます。
いたずらが過ぎて、まれに深刻な被害をもたらすこともあります。京都では墓に供えた火をつけたろうそくをくわえて飛ぶカラスの姿が撮影されています。
同じ場所で不審火が起こったことがありますが、この犯人はカラスではないかという説もあります。
ろうそくは、カラスにとってエサになります。墓場ではお供えものと共に人気があるので、出来れば片づけたほうが賢明です。お供えものをそのままにする地域もありますが、最低限、火は消しましょう。
早起きな鳥
鳥類の中でも早起きで、夜遅くまで活動する鳥です。
カラスは夜明けの40分ほど前から目覚め、まだ空が白むほどの頃にねぐらから飛び立ちます。
里山で同じほど早起きな鳥はヒガラくらいで、スズメなど多くの鳥は日が昇ってから活動します。
多くの鳥は、夕方になると眠りの準備を始めますが、カラスは夜になっても活動する傾向があります。
カラスのねぐらの近所で暮らすと、夜中でも騒ぎ立てる声が聞こえるかもしれません。これはフクロウなどに襲われたなど、何らかの緊急事態が起こっている時に起こります。
食性およびエサ
雑食性ですが、ハシブトガラスに比べて植物系のエサを好みます。
地面でエサを探すことが多く、ゆっくり歩きながら土をつつく姿をよく見かけます。
果実や種子、昆虫類、動物の死骸に加え、機会があれば卵や雛鳥、小動物まで食べます。畑の作物を荒らすことも珍しくありません。
仙台市には、クルミの実を自動車に曳かせて壊すハシボソガラスがいます。
ハシボソガラスはあまり嘴が強くないため、クルミの実を自力で割ることができません。通常は高いところからコンクリートに落として割ろうとしますが、クルミは固いのでなかなか割れません。
確実にクルミを割るためにカラスが利用するのが、車です。
信号待ちの車の前にクルミを置き、自分は道端で待っています。潰れたのを確認すると信号が青になるのを待ち、人間と一緒に歩いて壊れたクルミを回収します。
このユニークな生態は動物映画にも収録され、世界中に紹介されました。
人間もイタズラで、カラスが置いたクルミをわざと避けて運転することがあります。すると、カラスはその軌跡を予測してクルミを置いて対抗します。
小さな水路をせきとめて水場を作ることもあります。
水が欲しいのではなく、カラスの狙いは水を求めて集まる鳩です。
カラスに襲われても鳩は水を求めてやって来るので、カラスにとっては良い猟場になります。自ら猟場を作る賢さは、鳥類の領域を越えています。
ハシボソガラスの民話とご神事
「ゴンベが種まきゃカラスがほじくる、三度に一度は追わずばなるまい、ずんべら、ずんべら」
農家の苦労が忍ばれる歌ですが、この権兵衛という人物は伊勢の鉄砲名人とも、御鳥見役(猟場を保護する、自然保護員のような役職)の川井権兵衛とも言われています。
徳川吉宗の時代、江戸の周辺を禁猟区にし、鳥獣保護に勤めました。この地域で狩った鶴などを天皇に納めるための処置でしたが、周辺の農家は害鳥駆除すらできません。
この鳥獣保護を担当するのは御鳥見役(おとりみやく)という御家人でした。御鳥見役は、獲物になる鳥を増やすために自然環境を整え、種をまいて野鳥が暮らしやすい環境を整えました。
しかし、せっかく種を蒔いても、ハシボソガラスがやって来て土をほじくって食べてしまいます。
狩りも害鳥駆除もできず、お上に不満が溜まっていた農民たちは、この歌を歌って川井権兵衛をからかったと言われています。
カラスが関わる神事に「鳥ばみ」があります。
カラスは神のお使いという思想があり、その年の予測をカラスに伺って予想しました。
カラスでも答えやすいように畑に供物をそなえ、どのようにカラスが食べたかで吉凶を判断します。その年の気候を予測し、稲の種類を選ぶことも行いました。
カラスに扮した神官が行うこともあります。
かつて、埼玉の農村では「烏勘定」(からすかんじょう)というご神事がありました。
畑のうねに、3つのしとぎ(神様に捧げる餅)を置きます。子供たちは「烏勘定、烏勘定」と唱えてカラスを呼び寄せます。
畑にやって来たカラスがどの餅を食べるかで、早稲、中稲、晩稲の種を蒔くかを決める行事です。
カラスは太陽信仰と深い関わりがあり、古代中国では太陽には三本足のカラスが住んでいると考えられていました。
古代ギリシャ神話では、太陽神アポロンの使者でした。当時のカラスは真っ白な姿で、きれいな声で歌うことができました。人間界や世間を視察してはアポロンに報告するのが、カラスの仕事です。
しかし仕事ぶりは不真面目で、嘘や誇張したことばかり伝えていました。とうとう怒ったアポロンはカラスを真っ黒な姿にして、美しい声も奪ってしまいました。
モンゴルからアラスカ~北米一帯の先住民の神話にも、カラスは重要な役目で登場します。カラス神話の分布は、人類文化史を推測するためにも役立ちます。
現在もカラスは夢占いなどで、大きな役目を果たします。
一般的に良くないイメージがあるカラスですが、親子連れのカラスや白いカラス、ヤタガラスなどが登場するときは良い兆候といわれています。
大事なのは全体の雰囲気で、カラスでも印象が良ければ吉兆と考えられます。逆にイヤな雰囲気がする夢なら、慎重に進めたほうが良いかもしれません。
ハシボソガラスの撃退法「農作物を守るには」
ハシボソガラスから農作物を守るのは一筋縄ではいきません。放っておくと果実や野菜はつつくわ、種はほじくり返すわ、苗は引き抜くわとやりたい放題です。
収穫しなかった作物の残りを食べてしまうので、まずは畑をきれいにして「カラスに与えるエサはない」ことを徹底させましょう。生ゴミや動物のエサなども厳重に管理します。
水引糸(テグス)
完全に追い払うのは難しいので、カラスの死骸を吊して追い払うこともあります。
ここまで過激でなくても、「水引糸(テグス)を張る」ことで、ある程度は排除することが期待できます。
畑の両側に50cm間隔ほどに杭を打ちます。
腰くらいの高さ(80cmくらい)に、ピンと糸を張ればカラスは避けていきます。
これは、カラスが飛び立つときに糸がじゃまになることを予想して忌避するためです。カラスは飛べないと命を落とすので、翼を痛める可能性のある場所にわざわざ入ろうとはしません。
これなら比較的簡単にカラスを追い払うことができます。
欠点は、畑の端まではガードできないことです。糸を張る位置が低すぎると効果がありません。
防鳥ネット
果樹園などでは、大きな防鳥ネットを張って作物を守ることがあります。効果は高いですが、ヒヨドリなどがネットに絡まって怪我をしたり、のたれ死ぬことがあります。
この死骸をねらってカラスが来るので、こまめに観察する必要があります。
テグスとの合わせ技で、さらに高い効果が期待できます。
最後は捕獲しかない!
それでもやって来るカラスは、捕獲するしかありません。
期間限定で現れるカラスは銃で狩り、通年被害がある場所は捕獲オリを設置すると効果が高いといわれています。
銃だけでなく、ロケット花火も平行して行うとカラスに恐怖感を与えることができます。わざと隠れた位置から花火を放つと、さらにカラスをパニックに陥らせることも。
知能が高いカラスを追い払うためには、「飽きさせない」「慣れさせない」「村全体が複合的な対処法で」行うことが必要です。
カラス食
現在、日本の野鳥は保護対象になり、条件が揃わなければ狩ることはできません。カラス駆除も、特に猟銃を使う駆除は様々な手続きが必要です。
しかし、もとは野鳥を狩って食べる習慣がありました。その一環でカラスも食べられていたようです。
かつては日本の一部地域で、カラスが食べられていました。北海道や秋田県、岐阜県、長野県では食用にされていた歴史があり、長野県にはカラス田楽という料理があります。
現在はジビエ肉の一つで提供されることもあり、高級フランス料理として提供する店も。
ハシボソガラスの肉は鶏肉に比べて弾力があり、臭みもなくコクがあり、美味しいと評判です。
肉の色が灰色なのが気にならなければ、チャレンジしてみる価値はありそうです。
カラス肉が市販されることはまずありません。ハンターや農家に依頼して分けてもらうのが、唯一の方法です。
ハシブトガラスは肉食のため、臭みが強く美味しくないと言われています。
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