アカゲラの生態と特徴について
森で木をリズミカルに叩き、幹に垂直に止まるアカゲラの姿は誰もがイメージするキツツキそのものです。
アカゲラは本州より北の森に暮らす日本で最も有名なキツツキです。日本全土に分布するオオアカゲラと区別が難しいので、その点についても紹介します。
アカゲラの生態
分布
日本では北海道と本州に広く分布します。四国にはごく僅かしか生息せず、九州や沖縄などにはいません。
本州には亜種アカゲラ、北海道には亜種エゾアカゲラがいます。留鳥で一年中ほぼ同じ場所で縄張りを持って暮らしていますが山で暮らすアカゲラは冬になると里に降りてくることもあります。
北海道ではコゲラ並みにありふれた鳥で、公園や自宅の庭で見かけることもあります。本州では比較的珍しい鳥で深い森まで行かないと見つけることができない地域がほとんどです。
世界的にはユーラシア大陸の中緯度から中国全土、北アフリカの一部まで広く分布し、亜種もたくさんいます。ヨーロッパ諸国、ロシア、モンゴルなどの大陸からインドシナ半島まで様々な環境に適応します。
樺太や中国東北部などに生息する亜種ハシブトアカゲラは渡りをする習性があり、春と秋に日本海の離島に旅鳥としてやって来ることもあります。
アカゲラは森さえあれば暮らしていける鳥で、低地から亜高山帯の落葉広葉樹林や針葉樹林、混合林でなわばりを構えます。
戦後の日本は広葉樹林が減りスギやヒノキなどの針葉樹林が増えました。森の生態系が大きく変化し生きていけなくなった動植物も少なくありませんが、アカゲラはそんな変化もうまく利用しています。
群は作らず単独かつがいで行動します。
生態
キツツキ目キツツキ亜科アカゲラ属の鳥です。
大きさはムクドリほどで、くちばしの先からしっぽの先まで23.5cmくらい、翼を広げると38~44cmくらいの鳥です。体重は66~98gと鳥類のわりには重く、木の幹に穴を開けるためにズッシリ重い体重を維持しています。
黒、白、赤のハッキリした色合いの鳥で、下腹部とお尻の赤みがとても生えます。雄は首の後ろが赤く、若鳥は頭まで真っ赤です。頭を見ればそのアカゲラが成鳥か幼鳥かがすぐ区別できます。メスにはお尻以外には赤みがなく地味な印象です。
背中は真っ黒で肩あたりの羽と尾羽の先が白く、背中を見ると八の字を逆にしたように見えます。お腹の上半分は真っ白で下は朱色です。
翼には黒白の斑点があり、羽を広げると斑点がよく目立ちます。青は目の上と下にはっきりした黒い線があり、目のまわりや頬は真っ白です。
アカゲラの画像や写真を見ると色数が少ないですが絶妙な配色の美しさが楽しめます。首の後ろが赤い雄は見栄えが良く写真家やバードウォッチャーに人気があります。
アカゲラの羽根は特殊な作りで、尾羽は非常に堅く幹に押しつけて3点で体を支えます。登山などで崖を上るときは必ず3点で支えますが木の幹で暮らすアカゲラも3点支えを徹底しています。
足は前指2本、後ろ指2本でしっかりと体を支えることができます。
くちばしは真正面から見ると三角形で、工具のキリのように見えます。このキリのようなくちばしで太い木の幹も易々と穴を開けてしまいます。
さらにアカゲラの鼻には短い羽が覆い被さり、木くずが鼻に入りにくい構造になっています。
アカゲラなどキツツキの仲間は木を叩いて餌を取るため頭部が特殊な作りになっています。
脳しんとうを起こさないようにくちばしを支える骨が厚く、頭とくちばしは直角に付いています。さらに頭の後ろまで長い舌が収納されていて衝撃を和らげます。
キツツキは独特の風貌ですが「木に穴を開けて獲物を捕らえる」という特殊な生態に適した構造になっています。
アカゲラは「ケッケッ」と鳴き声を上げることもできますがドラミングで意思表示をすることもできます。
ドドドドドと枯れた木の幹を叩いて周囲に音を轟かせ、なわばりの宣言などを行います。
エサ
アカゲラの餌は木の中に潜むカミキリムシなどの害虫です。ゴミムシや木の皮に隠れる昆虫や蜘蛛などを主に食べます。
害虫を駆除することで木々を守り、森の健康を保つ貴重な存在です。
秋になるとホオの実など様々な果実を盛んに食べます。ホオの実はキツツキのために進化したような姿で、真っ赤なドリアンのようなトゲに覆われた巨大な赤い実の中にザクロの粒のような赤い種がたくさん詰まっています。
キツツキがホオの実をつつくたびに数粒ほどの種が漏れ、出てきた数粒をせっせと食べます。食べ終わってつつくとさらに数粒出る仕掛けになっています。
ホオの木は大木にならないと実を付けないのでアカゲラにとっても安全に食べられる餌で人気があります。秋にキツツキを観察したいときはホオの実が実る場所に陣取ると遭遇率が上がるでしょう。コゲラやアオゲラもホオの実が大好物です。
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天敵
成鳥はオオタカ、ハイタカなど猛禽類が主な天敵です。
卵やヒナには天敵が多く、ハイタカが巣に足を突っ込んで雛をかき出そうとしたり、カラスが巣を破壊することがあります。蛇に侵入されて卵や雛ごと食べられることもあります。
注意点
北海道ではエゾアカゲラは数多く分布し、人がたくさんいる公園や庭先で巣を作ることもあります。
基本的に木の高い場所に穴を開けて巣作りすると言われますが高さ1mほどの場所で作ることもあります。観察しやすいかもしれませんが過度に近づいたりのぞき込むのは止めましょう。警戒したアカゲラが巣を捨てて逃げてしまう可能性があります。
「ケッケッケッ」とアカゲラが警戒音を発していたらすぐにその場を離れましょう。
アカゲラとオオアカゲラの区別
アカゲラによく似たキツツキの仲間にオオアカゲラがいます。外見はアカゲラより一回り大きく羽の色もアカゲラにそっくりです。よほどアカゲラを見慣れた人でなければ判別は難しいですが幾つか方法があります。
オオアカゲラの背中にもアカゲラ同様の白斑がありますが逆ハの字には見えません。背中を見るのが一番てっとり早い判別法です。
オオアカゲラのお腹には黒い縦模様がありますが、アカゲラは白と赤だけで模様はありません。飛んでいる姿を見かけたらお腹を見てみましょう。
オオアカゲラの雄は頭頂部からくちばしの先まで真っ赤です。アカゲラは頭頂部から後頭部にかけてだけ赤いので雄なら頭を見て区別ができます。オオアカゲラの雌の頭は黒く、白いアカゲラ雌と区別できます。
ほかにもオオアカゲラのほうがドラミング音が大きい、木の幹に開ける穴の直径が大きい(アカゲラ5cmほど、オオアカゲラ6cmほど)などの特徴で判別できます。
オオアカゲラは日本全国に生息しますがアカゲラは九州四国沖縄ではほとんど見かけません。
エピソード
アカゲラらしきキツツキは日本書紀などに登場し、四天王寺を破壊する政敵の怨霊として書かれています。
四天王寺が建立される前は仏教を取り入れたい蘇我と外国の宗教を受け入れない物部が激しい争いをしていました。蘇我馬子が仏に祈願すると物部は破れ、日本に仏教を取り入れることができました。
馬子は聖徳太子に改名し四天王寺を建立します。しかし建立したとたん政敵として討たれた物部守屋が大量のアカゲラなどのキツツキに変化し、あちこちに穴を開けて壊してしまいました。仕方がないので大阪阿倍野に再建立し、それが現在の四天王寺です。
四天王寺を再建したときに鷹の止まり木を作り、二度とキツツキの襲撃に遭わないように工夫しました。現在も鷹の止まり木は残り、ここには白い鷹に変化した聖徳太子が止まると言われています。
現在もアカゲラが暮らす森付近の家屋に穴を開ける被害が散見します。
現在は捕獲も狩猟もしてはいけない野鳥ですが、明治時代には狩りの対象として狩られていた記録が残っています。
明治時代にイギリスから北海道にキリスト教の布教に訪れた宣教師ジョン・バチェラーはアイヌ研究の第一人者で、多くのアイヌの人々と交流し医療や教育などに奔走しました。
バチェラーは日記に当時の北海道の様子などの記録をたくさん残しています。アイヌの猟師がエゾアカゲラを狩ってバチェラーに差し入れをしてくれたものの、キツツキ特有の長い舌がだらりと口から垂れている姿が恐ろしくて食べる気になれなかったと日記に残しています。
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